内容紹介
教師の養成と成長、教師教育改革という課題を視野に入れつつ、現代社会における子どもの生存と発達の現実に軸足をおいた「発達援助の学」の一つの試み。対人援助実践や臨床教育学に興味のある方はもちろん、ぜひ教師・教育者が手にとっていただきたい。
版元コメント
はじめに——本書の性格と構成
(…前略…)
本書は四部構成となっている。
Iの「日本の社会と臨床教育学」は、現代日本の社会の中に、臨床教育学を必要とする根拠があることを明らかにしようとした。子どもを捉える視線が「厳しさ」を増すなかで本来の子ども理解を対置し深める必要のあること、今日深刻な危機に直面する地域には、子どもの成長・発達の基盤としての大切な意味があり、それを求める地域に根ざした教育への努力が試みられていること、また、教師の日常の実践の中に臨床教育学を求める声が生み出されていること、さらに関連諸科学の中で展開される「臨床」というもくろみに内在する可能性と危険性について、それぞれ検討した。
また、IIの「世界の中の臨床教育学」では、必ずしも「臨床教育学」に相当する言葉が使われていなくても、問題意識を共有できる外国の研究動向を調査し、国際的な視野のもとに私たちの臨床教育学の試みとその意味を確かめようとした。きわめて限定的ではあるが、科研費の共同調査で取り組んだフィンランド、カナダ、アメリカの調査研究を中心に紹介・検討し、「ナラティヴ」「スロー」「ケア」などの臨床教育学にとっての重要な概念に出会うことができた。また、共同研究のメンバーが学外研究で対象としたスコットランドについても、最新の情報を紹介してもらった。臨床教育学が教育制度や行政の問題をどう位置づけるのかという問題を考えるためにも参考になると思う。
IIIの「教師の養成・成長と臨床教育学」は、当初、私たちの研究の出発点にあった問題の一つである。『臨床教育学序説』で検討された京都大学、武庫川女子大学、北海道大学の臨床教育学の試みに引き続くもので、大学院をベースにした武庫川女子大学、北海道教育大学での現職者を対象にした臨床教育学の研究・教育の実際とその意義、都留文科大学での学部での教師養成に臨床教育学を位置づけた試みについて検討・紹介した。また、教師教育改革に関するフィンランド調査(2005年)を合同で行った佐藤隆氏に、今日世界で起こっている教師教育改革の動向を素描してもらった。日本で着手されている臨床教育学的な教師教育の試みの位置を確認できればと考えた。
最後の「臨床教育学の自己吟味」は、私たちの実践的・理論的試みを文字通りもう一人の自己の視点で対象化し、吟味しようとしたものである。カナダでのナラティヴな学校研究に基礎づけられた教師のアイデンティティ形成という問題意識、私たちの臨床教育学の一つの源でもあった教育人間学の視点、保育とH・ワロンの情動理論とをつなぐ視点、教師のライフヒストリーの語りという文脈で浮かび上がってくる課題と可能性という切り口から、それぞれ臨床教育学の自己吟味を試みた。
なお、最後になってしまったが、序の「臨床教育学の構想——創造の現場から」(田中孝彦)は、臨床教育学の全体的な輪郭を示すための論考である。個人の責任で執筆されたものだが、私たちの共同研究の大きな枠組みと問題関心を提示している。
本来、日常の営みと結びついた地味な「臨床」という試みが、用語の「流行」とともに肥大化し、やや上滑った感を与えるようになっている。本書が臨床教育学の研究・実践への新たな関心を触発し、地道な次へのステップへと連なることを願っている。
2008年9月 編者を代表して 森博俊
目次を表示
はじめに——本書の性格と構成(森博俊)
序 臨床教育学の構想——創造の現場から(田中孝彦)
I 日本の社会と臨床教育学
第1章 子ども理解と臨床教育学——「子ども理解のカンファレンス」の試み(森博俊)
第2章 地域からの臨床教育学の胎動——北海道檜山郡上ノ国町の調査から(田中孝彦)
第3章 現場でいきる臨床教育学を求めて(福井雅英)
第4章 「臨床」という言葉と臨床教育学——医学教育及び臨床心理学の場合に即して(氏家靖浩)
II 世界の中の臨床教育学
第5章 ナラティヴ・ラーニングと発達援助の理論——フィンランド調査から考えたこと(庄井良信)
第6章 スローエデュケイティングと臨床教育学——カナダでの教育改革運動から(折出健二)
第7章 新任教師へのケアと臨床教育学——アメリカ合衆国での調査から見えてきたもの(龍崎忠)
第8章 分権国家スコットランドにおける「追加的学習支援(Additional Support for Learning)」政策の性格——臨床教育学の視点と課題に寄せて(富田充保)
III 教師の養成・成長と臨床教育学
第9章 夜間大学院における臨床教育学の学びと教育実践——武庫川女子大学・現職教員への聴きとりを中心に(小林剛)
第10章 現職教員と構築し合う臨床教育学——北海道教育大学・学校臨床心理専攻の大学院生とともに(庄井良信)
第11章 臨床的な子ども理解と教師養成教育——都留文科大学における臨床教育学の試み(森博俊)
第12章 教師教育改革の国際的動向(佐藤隆)
IV 臨床教育学の自己吟味
第13章 カナダにおける教師のアイデンティティ形成と日本の教師像のこれから——クランディニンの研究グループが拓くナラティヴな学校研究の検討を通して(田中昌弥)
第14章 臨床教育学への教育人間学的パースペクティブ(山内清郎)
第15章 保育と臨床教育学——アンリ・ワロンの情動研究に着目して(影浦紀子)
第16章 教師のライフヒストリーの語り・聴きとりとその意味(田中孝彦)
おわりに(庄井良信)
索引