内容紹介
教室マルトリートメントやトラウマ、不登校、虐待を専門家との対談で読み解き、子どもの脳を傷つけない教育の指針を示す。
版元コメント
本シリーズ『学校の生きづらさをケアする』は、元教師であり、自らも精神疾患による休職を経験した水野正司氏が、長年抱き続けてきた教育現場への違和感を出発点として生まれた。
転機となったのは、二〇二四年に公表された「旭川いじめ凍死事件」再調査報告書との出会いであった。三六七ページに及ぶ記録を読み込むなかで、著者は、子どもや教師が抱える「生きづらさ」は個人の問題ではなく、学校や社会のシステムに深く根ざした問題であるとの確信を強める。そして、その現実を広く社会に伝えたいという思いから、本シリーズの構想が生まれた。
編集部は、「生きづらさ」と並ぶもう一つの柱として「ケア」という視点に着目した。子どもたちにも教師たちにも存在する困難を、誰かを責めるのではなく、何ができるのかという立場から見つめ直すこと。それが全三巻を貫く共通のテーマとなっている。
第1巻では、廣瀬爽彩さんの事件を通して、いじめや学校不適応の背景にある教育システムを検証し、社会全体で子どもを支える仕組みを問い直した。第2巻では、精神疾患を経験した教師たちの証言をもとに、学校現場の構造的ストレスや教員養成制度の課題を明らかにし、教師のウェルビーイングの重要性を提起した。そして第3巻では、発達性トラウマ、虐待、不登校、教室マルトリートメントなどの問題に向き合う専門家への取材と対話を通して、子どもの脳と心を傷つけない教育のあり方を探究している。
本シリーズは、教育関係者だけに向けた「教育書」ではない。学校の内側で起きている現実を社会に開き、子どもと教師の双方が安心して生きられる環境を築くための提言の書である。
教育とは、本来、子どもたちの幸福のために営まれるものである。だからこそ、その営みが苦しみを生み出してしまう現実から目をそらさず、よりよい方向へ変えていくために何ができるのかを考え続ける必要がある。本シリーズは、そのための対話と実践の出発点となることを願って刊行するものである。
目次を表示
プロローグ──教育書なんて読まない方へ
第1章 ただ、傷つけないこと
【川上康則×水野正司】
1 背景を察知し、関係性を耕す――教室マルトリートメントの視角から
家庭という〝ブラックボックス〟をどう開くか
Q1 家庭での様子を知るには
Q2 連絡帳では伺い知れない何か
「不適切な指導」という言葉はなぜ現場をこわばらせるのか
Q3 海外と日本、学校に存在するギャップ
Q4 「不適切な指導」という言葉への抵抗
Q5 不適切な指導の固着化
情報過多の時代に問われる教員の自発的な学び
Q6 成長する教師の条件
Q7 「専門性」の功罪
2 いのちの居場所――子どもと家族の「生きる」を支える
家庭の限界と虐待のリスク
Q8 児童虐待との対峙
Q9 虐待リスクを減らす
「ちょうどいい叱り方」という提案
Q10 叱る場面は「二つ」だけ
「こらしめ型指導」のメカニズム
Q11 何を大切にしているかが問われる
Q12 「不適切さ」を可視化・言語化する
取り返しのつかない「毒語」
Q13 教師が発する一言の影響
3 成長のバトンを繋ぐ――キーパーソン、そして対話するチーム
チーム対応は教師間の対話から始まる
Q14 チーム対応の陥穽
愛着障害と引き継ぎの難しさ
Q15 愛着障害のあるお子さんはいらっしゃいますか?
Q16 キーパーソンを引き継ぐ
個別支援計画を本当に機能させるには
Q17 「早期」と「その後」の情報
4 傷つけない――エンパシーとケアで、教師と教室の日常を編み直す
「なぜその行動になったのか?」を想像する
Q18 「エンパシー」と「シンパシー」の使い分け
学級の実態には常に「幅」がある
Q19 四年生の教室には「七~一三歳」がいる
Q20 両方に対応していくのがプロの教師の仕事
ケアとは、傷つけないこと
Q21 傷つける言葉を使わないだけでいい
Q22 ケアの三つの場面
セルフケア、そして自己との対話
Q23 それは日常の中にある
第2章 日本の子どもたちを救う
【小嶋悠紀×水野正司】
1 制度の質と支援の本質──IEPから考える
日本と海外の特別支援体制を分かつもの
Q1 日本の特別支援教育に足りないのは何か
「支援」か「レッテル」か
Q2 日本に足りないのは「決め方」ではなく「在り方」
2 今、現場で何が起きているのか?──授業・保育観・トラウマ
「救える子」を取りこぼしている指導
Q3 通常学級のなかでも対応可能なのではないか
RIDGEの実践から問う「トラウマの起点」
Q4 トラウマ体験は幼児教育から始まっている
現場を支配する「旧保育観」に抗する
Q5 「日本の悪習」とは
幼児期のトラウマと連携の欠如が不適応を生む
Q6 発達観と接続方法のアップデート
3 公教育の限界を超えて──「これからの支援」のかたち
私たち教師は何をしてきたのか?
Q7 日本の教育は〝トラウマ生成環境〟になっている
民間と連携する時代へ
Q8 学校・教師に求められていること
第3章 トラウマを抱えた子どもをどう支えるか?
【三谷はるよ×水野正司】
1 子どもの逆境体験をどう「理解」するか――ACE/PCEの視角から見る
子どもの未来をつくるPCEの視点
Q1 学校では教えられていないこと
PCEは子どもだけでなく大人も勇気づける
Q2 支援者をエンパワーメントする力
子育てを学ばないまま大人になる社会の中で
Q3 高校生に届ける「赤ちゃん学」の授業
孤立する子育てをどうサポートしていくか
Q4 「子育ての仕方」の継承はなぜ途切れたのか
2 トラウマを抱えた子どもに大人がどう関わるか――学校が「実践」できるケア
トラウマケアの出発点は二次受傷を起こさせないこと
Q5 「二次受傷させない」とは
ACEサバイバー──気持ちを言葉にする難しさについて
Q6 まずやるべきこと
「助けを求める力」を教える
Q7 レジリエンスと受援力
子どもは教師や大人の本気度を見ている
Q8 内容よりも大切なこと
レジリエンスとは「乗り越える力」ではなく「適応する力」
Q9 自己責任論に傾斜させない
3 子どもを支える「社会」をどうつくるか――学校・家庭・地域をつなぐケア
ACEが示しているのは「家庭環境による不平等」の現実
Q10 ACE研究の事実を「肌感覚」にプラスする
子育て・家庭・学校はすべてつながっている
Q11 教員の負担を減らすために
「エデュケーター」──問題が起きる前に支えるフランスの家庭支援
Q12 「もう一人の家族」とは
「第三の大人」と出会える社会へ
Q13 「申請主義」という壁
「アディクションは生き延びる方法だった」
Q14 PCE──「高校生くらいまでの間に」
先生方は子どもにとっての「信頼できる大人」でいてほしい
Q15 生きようとする瞬間に立ち会う仕事
第4章 その子は「発達障害」ではない
【杉山登志郎×水野正司】
1 発達の凸凹──児童精神科の常識から零れ落ちる子どもたち
理由がよくわからないまま学校に行かなくなる
Q1 〝新型〟不登校について
教師のリーダーシップと最低限のルール
Q2 「学校で一番大切なこと」
脳の発達段階に即した「凸凹グループ」への対応の基本
Q3 「九歳の壁」とリーダーシップ
子どもの変化に追いつかない学校制度をどう更新するか
Q4 日本の学校のプラス面とマイナス面
通級指導は適切な受け皿になっているか
Q5 「通級による指導」の問題点
2 発達性トラウマ症──被虐待児、その不可視の構造
被虐待児が、発達障害と「診断」されている
Q6 カテゴリー診断は非科学的
健診の落とし穴
Q7 トラウマ治療の現実
被虐待児はどの現場にも存在する
Q8 別の診断名で捉えられている?
虐待の背景にある、親たちの戦争体験と記憶
Q9 トラウマは人類の課題
3 愛着障害の定義──「くっつくこと」の大切さ
第一の定義──愛着形成不全
Q10 愛情そのものとは別の概念?
第二・第三の定義──D型・RAD/DESD
Q10 「育て方」との区別は?
「トラウマのメガネ」で見る
Q11 フラッシュバックへの理解