内容紹介
通常学級における発達障害児の相互行為や人々の視線を多角的に分析し、制度や実践の背景を明らかにする。2010年代のフィールドワークを起点に、参与観察やインタビューによって教師の発達障害児への対応とその背景を検討する。
版元コメント
序章 〈障害があること〉はいかに理解可能な現象なのか
(…前略…)
5. 本書の構成
本書の構成は次の通りである。第1章では通常学級における発達障害児の支援を分析するために、研究の方法と分析枠組みを設定し、発達障害児に対する支援の現状を概観する。続く【第Ⅰ部 「発達障害」をめぐる語り】では、新聞報道および発達障害児を育てる母親の語りを分析対象とし、「発達障害であること」と学級の秩序に参入する際に求められる能力とをどのように捉えているのかを考察する。
第2章ではハッキングの議論に依拠し、新聞記事を分析対象として取り上げる。そこでは、人々は分類されることによって、自分の分類を意識し、行動を変えていくという「ループ効果」に着目する。(…)
続く第3章では、第2章で扱った発達障害者支援法施行前後という2つの時間軸における保護者(母親)の回顧的語りを分析することで、発達障害児の母親の役割期待を明らかにする。(…)
第4章では、第3章で用いた母親の語りに加え、親の会において母親から「良い先生」と評価されている教師2名の語りを分析対象とする。そこでは、発達障害児を育てる親からどのような学校期待が寄せられているのか、そして教師が発達障害児にどのように対応していこうとするのかを検討する。その結果、先行研究で示されてきたものとは異なる形態の学校期待が存在していることを示す。(…)以上のように、第Ⅰ部では、発達障害概念を参照した人々(教師や保護者)が、自分の振る舞いをどのように変更させていくのかという「ループ効果」に着目して分析していく。しかし一方で、ある児童が発達障害という分類に適用されていく過程も検討するためには、ハッキングの立場による分析では不十分であり、学級で生じている相互行為そのものに焦点を当てる必要がある。
そのため、【第Ⅱ部 通常学級の相互行為分析】では、通常学級における教師と児童の相互行為の特徴についてX地域の公立A小学校でのフィールドワークによって得られたデータを用いて分析・考察する。(…)
第5章では、小学校の通常学級においていかなる支援がなされているのか、また診断名が他の児童に開示されていない状況の中で、当該児童がどのように支援の対象として位置づけられていくのかを分析する。(…)
第6章では、発達障害と診断された児童に対する、他の児童の振る舞いについて成員カテゴリー化装置を用いて分析し、児童の{支援者-被支援者}の関係を検討する。(…)
第7章では、障害名が開示されていない学級において、誰が「特別な配慮を要する存在」として処遇されるのかを学級の資源配分に着目して論じる。(…)
(…中略…)
そして、【第Ⅲ部 学校から社会への移行】では、X地域の親の会に加え、高校生から成人期の子どもの親が多く在籍しているY地域の親の会で得られた語りを分析対象とする。(…)
第8章では特別支援教育が開始される前後に学校生活を経験した子どもと親の回顧的語りをもとに、「ふつうであること」と「障害があること」をどのように認識していたかによって、学校生活の成否が規定されることを指摘する。(…)そこで、本章では障害認識の差異が特別支援教育の制度化といかなる関係にあるのか、また親と子どもの認識の違いが学校生活の不利益の解消にどのような影響を与えるのかということを明らかにしていく。そして、現在の社会において自らを障害者として認識することが不利益の解消に向けていかなる意味を持ちうるのかについても検討する。
続く第9章では、前章で分析した語りのうち、子どもが障害を自己認識していない事例を取り上げ、学校生活から就労移行に至るまでの経験を検討する。(…)本章ではそもそもなぜ当人の「ふつうである」という主張が成立しえなくなるのかということを問うことにしたい。(…)周囲の人々による「障害」と結びつけた語りが「事実」として扱われ、「障害者」という定義が付与されていく過程をD. スミスの「解釈の権威づけ」の観点から明らかにする。
最後に終章では、以上の議論を踏まえた総括論議を行う。
目次を表示
まえがき
序章 〈障害があること〉はいかに理解可能な現象なのか
1. はじめに
2. 障害児と学校教育――教育社会学における学級内の相互行為への着目
3. 「発達障害」という分類をいかに適用するのか
4. 障害カテゴリーの着目の意義――教育社会学と障害学の接合可能性
5. 本書の構成
第1章 学校の中のディスアビリティを捉える視点
1. 通常学級における個別的ニーズへの応答と学級の秩序の成立はいかに可能となるか
1.1 発達障害の定義と特別支援教育
1.2 教師ストラテジー研究における秩序の組織――発達障害児という視点
1.3 障害の社会モデルに着目する意義
1.4 教師の資源の配分のストラテジーへ――教師ストラテジー研究の展開可能性
1.5 通常学級における発達障害児に対する「特別な配慮」実践
2. 調査方法――調査対象校の選定とその特性
2.1 本研究の課題と方法
2.2 研究方法
2.2.1 新聞記事による言説分析
2.2.2 インタビューの分析
2.2.3 参与観察と教師や支援員へのインタビューの分析
第Ⅰ部 「発達障害」をめぐる語り
第2章 「発達障害」概念に対する解釈枠組みと振る舞いの変化――新聞報道における「発達障害」概念の使用に着目して
1. はじめに
2. 発達障害カテゴリーと人々の振る舞いの変化をいかに記述するか
2.1 法律における分類の変更と実践の関係
2.2 障害モデルの転換と能力
3. 研究の方法と対象
3.1 発達障害者支援法と発達障害児の処遇
3.2 発達障害児への支援をめぐる概念の使用の変化
4. 分析
4.1 「障害」をめぐる責任帰属の変化――学校や教師は何に対して責任を負うのか
4.2 発達障害児へ向き合う「家族」の存在
4.3 教師に対する発達障害の「理解」の要請と実践の帰結
4.4 親や児童生徒の働きかけと教師の学習面の配慮による「能力の発揮」
5. おわりに
第3章 発達障害児の母親役割とは何か――「努力する母親」としての振る舞い方に着目して
1. はじめに
2. 障害児の母親役割――発達障害児をめぐる情報管理/操作
3. 研究の方法と対象
4. 分析
4.1 養育責任の所在――ひとりで闘う母親
4.1.1 家族外から非難を受ける母親
4.1.2 家族から非難を受ける母親
4.2 発達障害児の母親としての振る舞い
4.2.1 「努力する母親」
4.2.2 「完全放置」の親に対する批判のまなざし
5. おわりに
第4章 発達障害児の母親は学校や教師に何を期待するのか――「“プロ意識を持って”教育する」教師としての振る舞い方に着目して
1. はじめに
2. 母親の役割と教師への期待
3. 研究の方法と対象
4. 分析
4.1 母親の通常学級という場の認識――授業を受けることができるための条件
4.2 通常学級で学ぶという選択――学習面での期待と配慮
4.3 母親にとっての「いい先生」とは誰か――「相性の良い/悪い」という語り
4.4 発達障害児の母親による学校期待――「“プロ意識を持って”教育をする」教師という役割
4.5 発達障害児の母親による学校期待――教師の役割とは何か
4.5.1 「発達検査につなげる教師」
4.5.2 「個別的ニーズを理解することを通して“プロ意識を持って教育をする”教師」
4.5.3 「連携する教師」
5. おわりに
第Ⅱ部 通常学級の相互行為分析
第5章 発達障害児に対する特別な配慮実践――授業場面の相互行為を中心に
1. はじめに
2. 特別な配慮実践における能力の捉え方
3. 研究の方法と対象
4. 分析
4.1 木下先生の教育観と「能力」の承認――「社会の縮図」のような学級における支え合い
4.2 教師の教育観へとつなげる実践へ――「お互いを支えていく」ための戦略
4.3 「特別な配慮」が「必要」であり、「可能」となる児童は誰か
5. おわりに
第6章 発達障害児をめぐる{支援者-被支援者}の関係――通常学級における支援の担い手としての児童に着目して
1. はじめに
2. {支援者-被支援者}関係という視点――児童間の対称性と支援関係における非対称性の併存
3. 研究方法
4. 分析
4.1 教師による「お兄さんお姉さん」カテゴリーの使用――診断名を公表しないこと
4.2 「大目に見る」実践の担い手――「慣れ」/「大丈夫」という語り
4.3 「大目に見る」実践はいかに成立するのか――児童による「病気」カテゴリーの適用
4.4 児童が支援すること――差異の確認作業を通して生じる包摂と排除の輻輳性
4.5 学級における{支援者-被支援者}――支援から逃れられない構造
5. おわりに
第7章 通常学級では誰に対する支援が優先されるのか――学級内の資源配分をめぐる調整
1. はじめに
2. 教師は誰を支援が必要な者として捉えるのか
2.1 合理的配慮の範囲――法律と運用場面における対象者は一致するのか
2.2 発達障害概念そのものの曖昧さ・不確実性から処遇をめぐる不確定性という視点へ
2.3 教師生徒関係における“見えづらい存在”である子どもたち――教師の認識枠研究の再考
3. 分析
3.1 学級の配慮のバランスの変化に伴う教師の再解釈――日本語の問題からADHDへ
3.2 学校/保護者の異なる資源配分の論理――学級の秩序と資源の有限性
3.3 ダイキの「怒りっぽい性格」――「障害」ではなく「性格」として
3.4 「難聴」と診断されているケイタ――確定診断と「性格」をめぐる処遇の揺らぎ
4. おわりに
第Ⅲ部 学校から社会への移行
第8章 ディスアビリティ経験における不利益とその回避戦略――健常/障害の自己認識をめぐる親子の語りに着目して
1. はじめに
1.1 社会モデルにおけるディスアビリティ経験への着目と不利益の捉え方
1.2 障害認識は不利益の解消をいかに可能にするか
2. 発達障害認識と特別支援教育の開始
3. 分析視角と調査概要
3.1 分析視角
3.2 調査概要
4. 事例の分析――「発達障害」との出会い
4.1 特別支援教育開始前の学校経験と発達障害認識
4.1.1 子どもの「ふつう」認識の構築――社会制度の不在から
4.1.2 親による健常/障害認識の葛藤――学校の無理解と対立という経験
4.1.3 親による障害認識の変化と不利益の解消に向けた戦略
4.2 特別支援教育の開始と発達障害認識
4.2.1 子どもの「ふつう」認識の相対化――障害の自己認識による可能性
4.2.2 親による障害認識の受容――問題行動と障害との関連づけ
4.2.3 親子の障害認識と不利益の解消への戦略
5. おわりに――障害認識の構築と不利益の解消に向けて
第9章 「障害者」の個人的経験の語りづらさ――発達障害者の抵抗と反発の無効化プロセスに着目して
1. はじめに
1.1 インペアメントの社会的構築という視点
1.2 「障害者」としての現実の構成――「私的」な経験に対する否定的価値づけ
1.3 学校教育段階から就労移行段階におけるインペアメントの構築
2. 本章の分析視角
3. 事例の分析
3.1 〈障害があること〉の確認作業
3.2 「海外経験」に起因する「おしゃべりのできなさ」という理解の協働達成
3.3 「おかしさ」に対する「障害」カテゴリーの付与とナオキの抵抗・反発
3.4 問題児としての〈障害児〉の構成――「ナオキのいじめられ経験は噓である」
3.5 「障害者」としての社会参加――就労のためのインペアメントの構成
4. おわりに――インペアメントの社会的構築と抵抗と反発の無効化
終章 〈障害があること〉をいかに支援するか
1. 各章の要約と通常学級における発達障害児支援の可能性
2. 本書のインプリケーションと残された課題
補論 調査者としての私が学校に入るということ――当該児童のニーズの発見をめぐって
1. 言説分析と学級での参与観察を終えて
2. 通常学級で子どもたちと関わりあう大人たち
3. 私は“何者”として学級に参与していたのか
4. 通常学級における教職員の連携に向けて
あとがき
文献
初出一覧